プログラム担当者の紹介

松田一希
松田一希
霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院 プログラムコーディネーター
野生動物研究センター・教授

フィールドワークは生きた学問

フィールドワークは現地で起こっていることを肌で感じる,その臨場感が魅力であり,常に新鮮な情報を提供できる生きた学問です。森林破壊が著しい熱帯地域では、野生動物と環境問題は切っても切り離せない問題です。そして環境問題と一言にいっても,解決にはその社会的・文化的また経済的背景を含めた取り組みが求められます。そうした現場で、多様な価値観を受けいれて活躍できる、柔軟で粘りのある人材の育成を目指します。

伊谷原一
伊谷原一
京都大学・名誉教授/野生動物研究センター・センター長

人間の未来に向けて

人間は社会的動物です。個は他者やそれを取り巻く環境と切り離して生きていくことはできません。「人間と自然」「人間と動物」という二分法からは脱却し、自然界の中で人間とはどのような存在なのか、わたしたちはどこから来てどこへ行こうとしているのかについて考えなければなりません。さまざまな野生動物の生きる世界を実感し、そして彼らの真の姿に触れることで、新たな自然観や生命観が生まれるはずです。未来を創造する旅に出かけましょう。

新宅 勇太
野生動物研究センター・特定准教授/日本モンキーセンター・キュレーター

博物館で何ができるのか

博物館で研究者はいったい何ができるのでしょうか. もちろん貴重な資料が保存される場所ですから,研究の材料を求めることができます.私はこれまで博物館で骨格標本を多数調査してきました. さらには動物園や水族館も博物館の一形態です.そこでは貴重な生きた動植物を調査することができます.でも博物館でできることは研究だけでしょうか. いま研究者には研究成果を広く公開し情報を発信することが求められています.そのような中で,さまざまな人が集まる博物館だからこそできることがたくさんあります. 「博物館でできること」を一緒に考え,実践していきたいと思います.

杉浦秀樹
野生動物研究センター・准教授

フィールドワークの現場を実感して下さい

野生動物の調査は、たいていは田舎の小さな村で行われます。野生動物を調査し、村人と交流するのは、本当に面白いものです。しかし、動物を追い求めて、調査地と深く関わるにつれ、狩猟や、開発といった問題も見えてくるでしょう。それらの問題は、村の中だけの問題ではなく、世界中の保全の現場に共通するグローバルな問題も多くあります。野生動物の素晴らしさと共に、彼らの置かれている状況や、そこに住む人々の生活を実感して下さい。

橋本 千絵
野生動物研究センター・助教

Enjoy the world of wild chimpanzees

Although chimpanzees are well known as intelligent, political, and sometimes aggressive animals, they are also fascinating animals in terms of tenderness, politeness, and thoughtful behaviors. Mothers are extremely affectionate to their infants, and I am always heeled when I observe mothers and infants spending a calm life in a rich African forest. Our study site, Kalinzu Forest in Uganda, is one of the closest sites to see wild chimpanzees. Please visit us to experience the world of wild chimpanzees.

平田聡
平田聡
野生動物研究センター・教授

進化の隣人に豊かな暮らしを

京都大学熊本サンクチュアリに、ヒトの進化の隣人であるチンパンジーとボノボが暮らしています。「動物福祉学」の確立と実践のための教育研究施設です。彼らの心と行動を研究し、人間の本性の進化的な理解を目指しています。そしてその研究成果を、彼らの安寧な暮らしと、生活の質の向上に反映させる取り組みをおこなっています。ヒトとヒト以外の動物が共に生き、幸せに暮らせる世界の実現のために、多くの力が集まることを期待します。

藤澤道子
野生動物研究センター・特定研究員
藤原 摩耶子
野生動物研究センター・特定准教授
アンドリュー・マッキントッシュ
アンドリュー・マッキントッシュ
野生動物研究センター・准教授

自然のなかで孤立しているものはひとつとして無い

自然というものをエレガントに表現したこの引用句は、レイチェル・カールソンの1962年の著作『沈黙の春』のものです。地球上の生命が、相互にいかに深く結びつきあっているかを表わしています。50年後の今日、この繊細な生態系を侵食し続けています。数多の科学的証拠が警鐘を鳴らしていますが止まりません。本プログラムを通じて、環境や生物の多様性に配慮できる若者を育てたいと思います。科学的手法を身につけ、実証的な証拠にもとづいた実践活動をめざす人材です。

三谷曜子
野生動物研究センター 教授

共に暮らす未来のために

私たちは古来より,海棲哺乳類から,あるいは彼らが暮らす海から食料や日用品など多くのものを得てきました。一方,人間は現在に至るまで海を含む世界に影響を及ぼし,その結果の環境変動は現在,人間を含む生物に影響を与えています。 私たちが海棲哺乳類の生きる営みを観察することは,生きる「時」を共有することです。彼らと私たちが一緒に暮らす海を,未来にも残していきたいと思う時,私たちは「今」,何ができるでしょうか。それを考えるために,実際の動物を野外でも飼育でも見てください。そして,本や論文を読んだり,色んな人と話してみてください。それが楽しければ,研究もきっと楽しいです。たくさんのフィールドに行き,たくさんの人たちに出会い,たくさんの「なぜ?」を解き明かしていきましょう。

村山美穂
村山美穂
野生動物研究センター・教授

分子から生態情報を読み解く

直接観察がむずかしい野生動物でも、糞や毛などの分析から、行動や生態など保全に有用な情報を得ることができます。DNAの解析により、系統や多様性や血縁関係や個性、さらには食物の種類などがわかります。またホルモンの測定により、繁殖状態やストレス状況などの情報も得られます。多様な動物種を対象に、DNAや細胞のデータベースを作製し、分子レベルでの解析技術を駆使して、フィールドと実験室をつなぐ学際的な研究をめざします。

阿形清和
阿形清和
基礎生物学研究所・所長/京都大学野生動物研究センター・特任教授

これこそ京大、という教育の方法があります

わたしがまだ京大の大学院生だったころのことです。実験データを先生方にお見せしました。もちろん同じデータを見せたのですが、お一人ずつまったく違うコメントや示唆をくださいました。ときには正反対の意見です。この体験を通じて、科学はまさに個人の営みなのだとはっきり自覚しました。科学における解釈には個人の視点が色濃く反映されます。異なる背景をもった研究者とふれあい、意見を交わす。それこそが重要な学びの場なのだと思います。

赤見理恵
公益財団法人日本モンキーセンター・キュレーター

誰もがホンモノに会える場所=動物園の魅力を探究する

日本は動物園・水族館大国です。毎年、日本の人口の半分以上にあたる、延べ7千万人以上の人々が動物園や水族館を訪れます。動物を見ることの楽しさは、古今東西、老若男女、普遍的なもののようです。ではなぜ、人々は動物園を訪れるのでしょう?
日本モンキーセンター附属世界屈指のサル類動物園で、「霊長類の魅力をどのように伝えるか」という教育的側面と、「人々は霊長類をどのように見ているのか」という利用者研究の側面から研究しています。

足立幾磨
足立 幾磨
ヒト行動進化研究センター・准教授

自分自身を知る、学びの場所です

動物を知ること、それは自分自身を知ること。そして人間とそれ以外の動物の共生のあり方を知ること。毎日100-300種もの生物が絶滅し続けていると言われています。本プログラムでは、フィールドワークを共通基盤として、動物および彼らを取り巻く世界を分析するための高度な知識と技術やマネジメント能力の涵養に力を入れています。大量絶滅時代に突入した世界の救世主となるべきグローバルリーダーを目指す学生の参加を期待します。

James R ANDERSON
野生動物研究センター特任教授/ 公益財団法人日本モンキーセンター国際学術顧問
今井啓雄
今井啓雄
ヒト行動進化研究センター・教授

いまこそゲノムと表現型のリンケージ

霊長類の研究でもゲノム解析が進んできました。単なる塩基配列ではなく、そこに生物学的な意義づけをしていくことが今後の課題です。とくに環境応答に関わる感覚受容体(視覚・味覚・嗅覚等)や、関連酵素に着目しました。分子レベルの知見から、細胞・行動・生態レベルの研究を展開しています。これらのセンサーを通して動物たちを理解することにより、彼らに適した環境を保全し再構築する手がかりになると期待しています。

小倉匡俊
北里大学獣医学部 助教

多様な立場から動物のQOLにアプローチする

動物福祉の視点から、飼育動物の生活の質(Quality of Life: QOL)をより良くすることが求められています。そのためには、飼育担当者の日々の積み重ねはもちろんのこと、獣医学的な知見も欠かせません。研究者が明らかにした発見も必要です。フィールドに出て野生環境とそこに暮らす動物たちの姿を見ることも新たな視点を与えてくれます。飼育動物のQOLをより良くするために多様な経験を元に協力する、多様な立場の、多様な人材の育成を目指します。

金森 朝子
NPO法人日本オランウータンリサーチセンター理事

フィールドワークを経験して、新しい価値観を得る

自分の興味のある動物やその動物が生息する環境に出かけてみると、研究室にいるだけでは想像もしなかったような、様々な問題を目の当たりにします。まずは、その環境が抱えている問題を理解し、そして、そこに関わっている人たちと話をしてみましょう。やがて、動物も生態も人間も全てがつながっていることが見えてきます。その過程で得られた新しい価値観は、研究や保全活動に取り組む判断基準になります。本プロジェクトでは、自分の価値観を獲得した人材が、様々な現場で幅広く活躍することを期待しています。

河合江理子
京都大学名誉教授

人間だけでは生存できない

地球温暖化の危機についての報道を見ない日はありませんが、生物多様性を失うことで人間社会の生存も危機にさらされることに気がついている人はまだ少ないです。最近は国連生物多様性条約締結などの動きもあり、生物学者だけでなく、企業も生産活動をNature Positive にする道筋を考えて行かなければならないでしょう。皆さんの研究が大切さを増すと確信しています。

河合美宏
OECD保険私的年金委員会議長、金融庁参与、京都大学経営管理大学院特命教授、東京大学公共政策大学院客員教授

言葉より心

スイスで金融の国際基準を確立する国際機関のスタートアップから事務局長として経営に携わってきた20年の経験から培った最大の知見は、「言葉より心」、「理論より気持ち」。言葉や文章でなく動物としての純な直感や本心を生かせば我々は遥かに上手く意思疎通が出来る。他の動物の意思疎通から学びたい。

川上 文人
中部大学・准教授

ヒトとヒト以外の霊長類を対象に,笑顔の観察をおこなっています。笑顔は単なる快感情の表れだけではなく,他者との関係を平穏に保つ機能も持っています。日々どのような場面で笑顔は使われるのでしょうか。そこには生き物の社会的知性が隠されていると考えています。

岸田 拓士
日本大学・教授/野生動物研究センター・特任研究員

野生動物をゲノムから理解する

全ての生物は、4つの文字A,T,G,Cからなるゲノムの情報に基づいて体や脳が形成され、この情報を子孫へと受け継いでいきます。私たち哺乳類のゲノムは30億文字にもおよびますが、4進法で書かれたこの長大な、しかし有限の数列の中に、個々の動物の能力や集団構造、進化などに関する情報がぎっしりと隠されています。直接観察だけでは見ることができない野生動物の姿を、ゲノム解析というスポットライトで照らす。'Wildlife-genomics'という新たな分野を、共に切り開いていきましょう。

木下こづえ
京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科・准教授/野生動物研究センター・兼任准教授

目に見えるすべてのことは、メッセージ

動物の研究を通して見えるすべてのことは、彼らや彼らを取り囲む環境からのメッセージです。私は、繁殖生理学の視点から、動物たちと関わっています。彼らは、安心して子供を残せる環境でなければ繁殖はしません。繁殖しない場合、彼らからのメッセージを読み解き、それに応える必要があります。本プログラムは様々な分野の方が関わっています。ぜひ、多様な分野に触れ、彼らからの複雑なメッセージを読み解く力を磨いてください。彼らからのメッセージを訳し、人に伝え、次に生かすことが私たちの使命であると考えています。

幸島司郎
幸島司郎
京都大学・名誉教授/野生動物研究センター・特任教授

野生動物を知り共に生きる

現在、多くの野生動物が絶滅の危機にあります。その保全や人間との共存のためにまず必要なことは、彼らのことを良く知ることです。彼らの生き方や都合を理解することなしに、保全や共存をはかることなど不可能です。また、野生動物を見ること、知ること、理解することは、人々を幸せにし、心を豊かにしてくれると信じています。このプログラムでは、世界の野生動物保全の現場で活躍し、このような価値観を世界に広める人材の育成をめざします。

齋藤亜矢
京都芸術大学文明哲学研究所・教授/野生動物研究センター・特任准教授

五感をつかって、感じる、考える

ヒトはなぜ絵を描くのか。チンパンジーとヒトの描画研究から「芸術の起源」にアプローチしています。芸術には人の心を動かす力があります。創造する行為には心を癒す力もあります。それはなぜなのか。注目しているのが、描画と同様に、行為そのものが楽しいという自己報酬的な行動、遊びです。チンパンジーをはじめとする野生動物の遊びについて、その「楽しさ」の本質を探ることから、飼育下での認知的なエンリッチメントを目指しています。

坂本龍太
坂本龍太
東南アジア研究所・准教授

共に学びたい

ブータン王国において、生活の場に根ざした持続可能な高齢者健診体制の構築に向けて活動してきました。指導者には、現場の声をしっかり汲み取り、そこで暮らす住民の信条の理解に努め、様々な条件を鑑みて明確な目標を立てることが求められると考えます。そのためには、実際に現場を体験するのが王道でしょう。本学には、強い連携を持つフィールドが、国内に止まらず、地球上の様々な地域にあります。皆さんと共に成長したいと考えています。

鈴村 崇文
野生動物研究センター 技術専門職員

フィールドワークの楽しさを

宮崎県の幸島は1948年にニホンザルの調査が開始されました。それ以降60年以上もの間、調査が継続されています。2003年から宮崎に常駐し観察をしていますが、これだけ長い間観察していても、同じ事は二度と起きません。周りの環境もその時々で違います。その一瞬を逃さない。ここにフィールドワークの面白さがあると思います。幸島に住むニホンザルは至近距離で観察でき、フィールドワークの基礎を知るには最適な場所です。幸島でフィールドワークの楽しさを知って下さい。

積山 薫
総合生存学館・教授

ヒトの認知機能の発達を、乳幼児、児童、高齢者などで調べてきました。この10年くらいは、高齢者の研究に力を入れています。おばあさん期がある哺乳類は、ヒトの他にはないそうです。老年期に特に重要な発達課題として、世代継承性、すなわち次世代に教え導くことへの関心があげられ、それは老年期の幸福への鍵になると考えています。他の動物では、世代継承性は親に適用されるのでしょうか?その辺りがどうなっているのか、ご一緒に考えてみたいです。

高野 智
公益財団法人日本モンキーセンター・キュレーター

霊長類を通した学びをより多くの人へ

骨のデザインの美しさに惹かれ、化石・現生霊長類の運動器を中心に機能形態学的アプローチをしてきました。また、日本モンキーセンターでは博物館活動の大きな柱である教育普及活動に取り組んでいます。博物館には学問の世界と市民とを橋渡しする役割があります。取っつきにくいと思われがちな研究の世界を、動物園の生きた霊長類や標本を教材として、いかにわかりやすく伝えるのか。幼稚園児から社会人まで、様々な年齢層に対して学習機会を提供するべく、教材研究、プログラム開発をおこなっています。

滝澤玲子
滝澤 玲子
環境省/野生動物研究センター・特任研究員


環境省の自然系職員として、本省や現地勤務(札幌・くじゅう・やんばる)を経験してきました。地域の自然や野生生物を守るのに一番大事なのは、地域の人々のちからです。もし、調査フィールドの自然や対象とする野生生物を守りたいと感じたなら、是非地元のおっちゃんおばちゃん子供たちと交流してください。最初は挨拶から、そして、自分のやっていることの紹介や感じたおもしろさを話すだけでも。面倒な気持ちから一歩進めて。きっと、新たな世界が広がりますよ。

田中正之
京都市動物園 生き物・学び・研究センター長 / 京都大学特任教授

動物園を学びの場に

京都市動物園に「生き物・学び・研究センター」ができました。このセンターは,動物について知りたいことを自ら調べる場所です。わたしたちが調べたことを,いろいろなメディアを使って紹介していきたいと思います。生き物・学び・研究センターは,「学び方を学べる」ことをめざします。動物園の職員みずからが、動物について調べます。その姿を見て,その話しを聞くことで,動物に興味をもつ子どもたちが憧れるような将来のモデルになりたいと思います。

徳山奈帆子

「知る」ことと「守る」こと

コンゴ民主共和国ルオー学術保護区にてボノボの研究を行っています。社会行動についての研究の傍ら、近隣の住民と共に森や野生動物を守る活動も行っています。野生動物を守るためには、その動物の生き方や、近隣の人々の暮らしや文化、そして人々の生活がどのように動物に影響を与えるまでを広く知ることが重要です。今後ますます、人と野生動物の共生を目指すための人材が求められると思います。

富谷進
富谷 進
ヒト行動進化研究センター・特定助教

Bridging life's past, present, and future

Just as we need to know the human history to properly understand the current world affairs, knowledge of the history of life is essential to understanding the present state of biodiversity. My colleagues and I study fossil and living mammals to investigate how their diversity has been shaped, and how it can be eroded. Answering these big questions requires a lot of basic information about what lived when and where, and how they lived. Thus, efforts to uncover, document, and interpret biodiversity across time and space have never been more imperative. Wherever your research interest lies—genetics, behavior, ecology, or conservation—we all share this obligation as wildlife scientists.

中村 美知夫
理学研究科 准教授

フィールドを楽しみましょう

タンザニアのマハレ山塊国立公園で野生のチンパンジーを対象に長期調査をおこなっています。マハレはチンパンジーの長期調査地として有名なところですが、最近では、ヒョウなどの大型哺乳動物の研究もおこなわれています。動物のことを知るためには、実際に動物が暮らす環境の中で観察をおこなうことが不可欠です。フィールド調査は大変な側面もありますが、楽しいものでもあります。ぜひ皆さんもフィールドを楽しんで下さい。

中村美穂
野生動物研究センター・特任准教授/ヒト行動進化研究センター・特定准教授

撮る、分析する、見せる

自然科学映像の制作に30年間携わってきました。撮影機材の小型軽量化、高画質化が加速度的に進んでいます。誰もが手軽に使えるハードだからこそ、使い方で差が出ます。技術的に可能になったからこそとれるデータがあり、映像で見せるからこそ伝わる事象があります。研究者にとってはもちろん論文が重要な目標ですが、研究対象の保護や自然環境の保全には、広く一般に理解され、共感を得る必要があります。知識も資源も「共有」が鍵です。

西田睦
琉球大学学長 / 京都大学特任教授
服部 裕子
ヒト行動進化研究センター・助教

リズムでつながる自然と私たち

ダンスや合唱に見られるように、リズムを合わせることで私たちは他者と仲良くなる術を進化させてきました。また他の多くの動物も、その仲間や環境とつながるために同調行動をとりいれています。リズムはどのようにして私たちや他の動物達を結びつけているのか。 チンパンジーや野生動物のリズム同調を調べることで、結びつきの多様性と進化的起源の解明を目指しています。また、そうした研究をとおして、飼育下での認知的なエンリッチメントにも取り組みたいと思っています。

The complex fabric of nature is based on simple stitches.

In nature organism do not live in vacuums, within their ecological and social niche they interact with other animals, plants and pathogens at the macro and micro level. Understanding the complexities of these interactions requires multi-diciplinary research. Join PWS and find your niche, whether it be basic science or conservation, and contribute to deciphering and preserving the mysteries of the animal kingdom.

早川 卓志
早川 卓志
北海道大学 大学院地球環境科学研究院 環境生物科学部門 生態遺伝学分野 助教

あなただけの野生動物研究を!

まずはフィールドに出かけ、あるいは動物園に出かけ、じっくりと動物のことを観察してください。なぜそんなにも自由自在に森を動き回れるのか。なぜそんなにも迅速に獲物を見つけ、捕らえることができるのか。なぜそんなにも群れたがり、また離れたがるのか。そんな些細な疑問を持った瞬間に、あなただけの野生動物研究が始まります。行動学、生理学、生態学、遺伝学など、あなたの疑問に答える研究手法はたくさんあります。多様な手法を組合わせて、総合的に野生動物の暮らしの秘密を読み解く研究のお手伝いができればと思います。

林美里
中部学院大学

言葉をもたない存在の代弁者に

チンパンジーやオランウータン、ヒトの子どもを研究する醍醐味は、彼らと仲良くなれること。彼らのふるまいかたをじっくり見ていれば、彼らの心の中が少しずつわかってきます。言葉をつかって話すことができない彼らの思いを代弁できるようになりたいと、日々の研究をつづけています。物を道具として使い、親やなかまたちとかかわる豊かなくらしの中で発揮される知性と、その発達を調べることで、ヒトの起源が見えてきます。

Ning HAN
Associate Professor, Kunming University of Science and Technology, China

Veni, vide, protega

Julius Caesar's "Veni, vide, vici" was recorded passed down and remembered from 54 BC till now. We human beings seem to remain the most "intelligent" species on this planet as conquerors. We claim and assume we conquer nations, nature and rule our planet. However, comparative cognitive research carried out in Primate Research Institute of Kyoto University provided scientific evidence obtained by scientific experiments that chimpanzees are smarter than human beings in some areas, such as instant memory. The more than 30-year Ai Project not only sheds light on chimp cognition but reveals a fascinating inner world of a female chimpanzee named Ai as well. Also Ai's son, Ayumu, a 12-year-old healthy boy, beat human beings in an instant memory test in both accuracy and swiftness. This reminds us that every species has equal rights to share this unique planet. Our human obligation to the future is to come, to see and to protect. Protect the environment and endangered species. Veni, vide, protega.

David Hill
野生動物研究センター・特任教授 (元 CICASP Professor 2010-2015)

Training a new generation of leaders to tackle environmental challenges

The enormous impact that human activities are having on the natural environment and its predicted long-term consequences for the biosphere has been widely acknowledged by governments, businesses and the general public alike. However, effective action to counter environmental degradation falls far short of what is required to halt, or even slow, the continuing loss of biodiversity and ecosystem services. With the Leading Graduate Program in Primatology and Wildlife Science (PWS) we aim to produce a new generation of leaders who are equipped to tackle these challenges. PWS graduates will be trained in aspects of field biology, conservation and wildlife science, and will be instilled with the knowledge and motivation required to promote the harmonious coexistence of humans and wildlife.

福島誠子
環境省/野生動物研究センター・特任研究員

環境省の自然系職員として、近畿地方にある3つの国立公園(吉野熊野、山陰海岸、瀬戸内海)の管理に携わってきました。 国立公園は自然を保護する場であるとともに、観光や教育のために利用する場でもあります。また、地域の方にとっては生活の場、生業の場にもなっています。 多様な立場の関係者が存在する中で、その地域にあった持続可能な管理の仕組みを考え、実行していく必要があります。自然を対象としながら、ヒト、モノ、カネをどれだけ意識できるか。鍵はそこにあると考えています。

古市剛史
京都大学・名誉教授/野生動物研究センター・特任教授

Welcome for field studies of chimpanzees and bonobos, and conservation of their habitat forest.

My research interest encompases social behavior, life history, and ecology of non-human primates and humans. My research carrior started with Japanese macaques in Shimokita peninsular and on Yakushima Island, and I am currently engaged in field study of bonobos at Wamba in DR Congo and chimpanzees in the Kalinzu Forest, Uganda. I am also working for conservation of habitat forest of primates and other endangered animals, as a member of Species Survival Commission of the International Union for Conservation of Natire.

Fred B. Bercovitch
野生動物研究センター・特任教授 (元 CICASP Professor 2010-2017)

We are the guardians of Mother Nature

Our existence on the planet has been only an infinitesimal span when compared with the duration of time since the origin of Life on Earth. Yet within that short time period, we have obliterated species, poisoned the atmosphere, scarred the landscape, and polluted our key source of Mother's Milk — fresh water. The Leading Graduate Program in Primatology and Wildlife Science is designed to provide research and education for the next generation of students who want to make a difference. To preserve our precious planet, and promote a more harmonious existence between human beings and our fellow inhabits of the globe, we have created a unique academic program integrating multiple disciplines, such as Conservation Biology, Animal Welfare, Evolutionary Anthropology, Comparative Cognition, Socioecology, Animal Behavior, and Social Outreach. We invite you to join us.

星川茂一
前京都市副市長 / 京都大学特任教授

自治体行財政の仕組みや当面する諸課題について考える

2013年3月まで京都市職員でした。副市長として2008年の京都市動物園と京大野生動物研究センターWRCの連携協定に関わりました。5年をへて2013年4月には動物園に「生き物学び研究センター」を開設。そのセンター長にWRCの田中正之さんを迎えることができました。動物園や水族館は野生動物研究の重要なフィールドのひとつであり、同時にその充実も強く求められています。大学院で学び、地方公共団体で活躍する。そうした人材に期待したいと思います。

堀江 正彦
前 駐マレーシア特命全権大使・地球環境問題担当大使、明治大学研究・知財戦略機構・特任教授/野生動物研究センター・特任教授

地球温暖化問題や生物多様性保全を始めとする地球環境問題は、この地球の死活的な問題となっている。これらの問題については、バランスの取れた解決を見いだす必要がある。気候変動枠組条約(UNFCCC)や生物多様性条約(CBD)を始めとする国際条約の下で繰り広げられる交渉は、極めて厳しく世界各国の弛まぬ努力を必要とする。講義では、気候変動問題に関する交渉に焦点を当て、日本がどのような努力を行ってきているか、開発途上国の努力を如何にサポートしてきているかなどを説明し、この「母なる大地」を保護する国際的な努力に参加してもらえるような機会を提供したい。

宮部貴子
ヒト行動進化研究センター・助教
明和政子
教育学研究科・教育科学専攻・教授
山極寿一
第26代京大総長

総合学としてのフィールドワーク

フィールドワークとは研究対象に「語らせる」技術です。植物に、動物に、そして波打つ地層に真実を語らせる。そのためには、どうしたら彼らが語ってくれるのかを考えねばなりません。その対象の世界へ身を投じて体験したり、それをよく知っている人に聞いたり、時にはまったく別の学問分野の方法を適用することも必要になります。その過程で多くのことを学び、自分の考えを説得力を持って「語る」能力を磨く。それを一人ではなく、みんなで楽しくやりながら、世界へ通じる窓を開けようと思っています。

山越言
アジア・アフリカ地域研究研究科・教授

地域の人々のことを深く理解しよう

人為を排した自然保護区は野生動物の保全にとって理想的な制度かもしれません。しかし、とくに経済発展の途上にある地域では、新たに保護区の面積を増やすことはとても困難な課題です。保全研究や保全行政の現場では、例えば日本の里山の保全のように、人々の暮らしによる影響を受けた二次的景観の中で生きる野生動物のことを知り、そのような生態系を保全することが重視されるようになりました。野生動物保全の実現のためには、地域の人々の暮らしや文化に深い理解を持つことがますます重要になっていくでしょう。

Yamanashi Yumi
山梨 裕美
京都市動物園・生き物学び研究センター・主席研究員

身近な動物をとおして人と自然の関係を考える

動物園など、わたしたちの身近にたくさんの野生動物が暮らしています。そこでくらす動物が心も体も健康に暮らせるような環境を整備するための基礎的・応用的な研究を、さまざまな学問分野で培われた知識をもとにおこなっています。動物種に合わせた環境整備は動物福祉はもちろん、域外保全、研究、教育の基盤になります。その実現のためには野生での生理・生態や動物種の発達、認知特性など動物の多面的な理解が欠かせません。また、さまざまな制約が多い飼育下ならではのくらしのあり方を実践的に模索する必要もあります。難題も多いですが、わたしたちに身近な動物たちのおもいがけない姿に出会えるかもしれません。

山本真也
高等研究院・准教授/野生動物研究センター・兼任准教授

共に生きる仲間への共感

チンパンジーやボノボを見ていると、こちらが観察されているように感じることがあります。私たちは、彼らの眼を通して、「人間とはなにか」を考えているのかもしれません。人間は自分独りでは生きていけない動物です。他者を認め、自己を知る。すすんで他者に手を差し伸べる。このプログラムでは、フィールドと実験室という垣根を飛び越えて多様な専門家が集っています。生物多様性への広く深い理解が未来を変える原動力になると信じています。

Lira YU
東京大学大学院総合文化研究科/野生動物研究センター・特任研究員
湯本貴和
湯本貴和
京都大学・名誉教授

人間とそれ以外の動物の共生をメインストリームに!

生態系劣化が人間社会の持続性を脅かしています。そうした共通認識のもと、人間社会と野生生物の共存を推進すべき国際的な転機を迎えています。しかし、保全の現場では圧倒的に人材が足りません。また人材が足りないという意識も希薄です。このプログラムでは、地球上のさまざまな地域で人間福利の向上と生態系の保全を両立させるために、必要なアイデアやネットワークを創りあげ、人間とそれ以外の動物との共生を主流化することをめざします。

リングホーファー萌奈美
帝京科学大学・講師