本企画はPWSの学生に対し、ベトナム国内に生息する種々の野生動物を観察する機会の提供と、現地で取り組みが行われている保全活動の視察を目的とする。また併せて現地で開催される国際霊長類学会を見学し、各国から集まった研究者の最新の成果に触れ、意見の交換を行う。
ベトナムの国土は南北に長く、南部と北部では気候・植生・野生動物の分布が異なる。気候による自然環境の多様性を実地で学ぶため、今回の企画では南部および北部の国立公園・自然保護区への訪問を計画している。南部のカンザー国立公園はベトナム戦争時に散布された枯葉剤によりマングローブ林が完全に消滅し砂漠化した歴史を持つが、その後の植林等の多大な努力の結果、現在では7万ha以上のマングローブ林が回復している。マングローブはその構造的・生態的な特徴から様々な生物にとっての生息基盤となることが知られており、実際に同公園では霊長類を含む多種の野生動物が観察可能である。北部で訪れるヴァンロン自然保護区は地域コミュニティの活動により保護区に指定された場所である。現在も地元住民の主導でエコツーリズムが行われ、地域コミュニティと共存した持続可能な保全活動が実現されており、地元住民の積極的な参画の重要性を体現した場所であると言える。同保護区では希少なリーフモンキーが観察可能である。また国際霊長類学会に参加し、世界各国から集まる研究者と懇談の機会を設け、研究等に関する意見交換を外国語で行う実地の訓練とする。
現状、動植物の研究者が保全に全く関わらず研究を進めることは困難であるうえ、保全への貢献は研究者に対して社会が強く求める成果のひとつだと考えられる。野生生物保全の最前線を見学し保全活動の成果と問題点を理解することは、机上の議論に留まらず実際的な提言を行う上で非常に重要である。また各地の研究者が一同に会し意見を交換する場は貴重であり、その場への参加はPWSの目指す言語能力の向上に寄与できるものと考える。派遣には野外での野生動物観察調査および保全研究の経験のある院生が同道し、PWS学生のサポートを行う。